スカイシャドウが空中からジャガーへと連絡する。
スカイシャドウはトカゲとトンボを同時にスキャンしたフューザーの1人だ。
「確かか?」
「それはもう。完璧に住処を確認しております」
「良し。これ以上連絡はするにゃ、交戦もだ。俺自らそっちへ行く。付近にいるプレダコンどもも向かわせる、奴らを皆殺しにしてやれ」
「つまり、あれを壊せば良いってわけだ」
マイナーが言う。あれからレイザービーストが言った指示は簡潔だった。
マグマトロンの持っている装置を壊す事だ。
「それにしてもこれって凄いチャンスだよね」
「俺、グリムロック。俺、百獣の王」
そんなグリムロックに対し、ドリルビットとイグアナスは2人がかりでさえ手も足も出なかった。
ドリルビットは尻尾で弾き飛ばされ、イグアナスは噛み付かれている。
「グリムロックってあの?」
「一応彼の名前もアクサロンの乗員として載っていたが……ともかくマイナー、これは良い機会だ。一発で頼むぞ」
そうしてマイナーは木から密かに飛び降り、忍び足でマグマトロンのところへと向かう。
「いつもと同じ。俺、お前達叩き潰すだけ」
「聞け、私は忙しい。貴様がここから立ち去るというのならば、命だけは助けてやる。もう一度言う。引け。そうすれば追撃はせん」
「俺、グリムロック。俺、お前と戦う」
その言葉を聴いた瞬間にマグマトロンは3体へと分離した。
そして一斉に白いラプトルへと飛び掛る。
「身体で教え込まねばならんということか!」
2人の戦いが始まったのを見て、マイナーは密かに忍び寄った。
ドリルビット達は既に重傷から機能をロックして動いていない。
そしてマグマトロンはグリムロックと激烈な戦いを繰り広げており、誰もマイナーを見咎める者はいなかった。
まんまとメガトロンの元へとたどり着いたマイナーは、マグマトロンがメガトロン捕獲に使った装置を盗み出す……
「こんなものが俺達の唯一の希望だと?」
ビブーンがあきれた口調とジェスチャーで言った。
「そうは言うがな!俺達だってベストを尽くしてるんだよ!数百万年も昔の骨董品でトランスワープ増幅器を修復するって無茶をな!」
「落ち着けスナール。わかっているだろうが、ビブーンのいう事も正しい。まあ、普通は口には出さないが」
「いや、ウルファング。あいつのいう事は正しいよ、やっぱり。もし奇跡で上手くいったとしても遅れるのはたったの3か4ナノクリックの時間だけ。
そんな時間でまともな交信が出来るわけなんてないぜ」
「それで?」
「2度目なんて無いってことさ!これからの俺達に必要なのは何よりも運なんだ!」
2人の戦いはマグマトロンに優勢だった。
シーサウルスがその長い首でグリムロックの身体を絡めと取り、
スカイサウルスが頭部を攻撃するのと同時にランドサウルスが横から腹に全力の頭突きだ。
「まだ立ち上がるというのか!貴様はそれほどの理由があるのか!?それとも自分が敗北したと理解出来ないほどにおろかなのか?」
「俺、グリムロック。多分、りょうほう……」
それだけを言い残し、グリムロックは意識を失って地面へと倒れ伏した。
「トランスワープ開始まであと6サイクル」
「時間か。良し」
「メガトロン。私はお前には何の感情も抱かん。敵意も、善意もな。だが、トリプルダクス評議会はお前を裁判にかけるだろう。
そうする事で私は奴らにも、マクシマルどもにも叛旗を翻すための時間を稼げる。そして私はいつの日か、セイバートロンを統一する。
その日が来たら、お前にも私の支配下で何らかの役目をやろう」
「えらく後のことまで考えてるな、マグマトロン。ところでお別れを言う時間はもう無いかい?」
「レイザービーストか。……もちろん、貴様には特別に時間を作ってやるさ」
マクシマル野営地。
「マンテラー、報告しろ」
ジャガーだ。すでにスカイシャドウが報告した場所には彼を始め、プレダコン達の大半が集まっている。
これだけの陣営で取り逃がすはずは無い。
「5,6人のマクシマルを確認。3人が左側に、2人は偵察に出ている。自動防衛装置の類は確認できず」
「わかった。地上部隊を前方に移動させろ。最初にやつらをおびき出し、その後全員で抹殺する!」
「よし、動くぜビブーン」
修理がある程度終わったトランスワープ増幅機の操作モニターを見ながらスナールが言う。
「メインパワー良し、短周期パルス増幅、ポイント0.5ナノクリック」
「ウルファング、そっちはどうだ?」
「正常動作中だ。完全に起動したらそっちで送信を始めてくれ」
「OK,レイザーバックより送信。マグマトロンは地球でプロトフォームを起動させ、軍勢を作った。セイバートロンでの警戒態勢の強化を望む……
これでどれくらいだ?」
「7、6ナノクリックって辺りだ」
「くそっ!長すぎた!俺達が……」
スナールがそこまで言った時、壁が崩れ始める。
「なんだ?」
ビブーンが疑問の声を上げた。
「大群だ」
偵察から戻ったラミュラスが言う。
「プレダコンだ。決着をつけに来たらしい」
ボーンクラッシャーが詳細を説明すると、すぐさまウルファングは決定を下す。
レイザーバックがいない今は彼がリーダーだ。
「ここにいるわけにはいかない。脱出しよう」
しかし、スナールが口を挟む。
「ウルファングたちは逃げてくれ。俺はここでもう一度試してみる」
「なんだと?駄目だ、1人には出来ない」
「頼む!ここから攻撃をそらして欲しいんだ。全員ここにいたら全滅する」
「だが……」
「お前はやらなきゃならないだろう!それで俺ももう一度交信を試みなきゃならないんだ!頼む、行ってくれ!」
洞窟の中にスナールを残し、爆発の中を4人が駆け抜ける。
「ジャガーに行かせたのだがな。まさか生き残るとは思わなかったぞ、レイザービースト。
だが、こうして私の目の前にいるのだ。決着をつけてやろう!」
しかし全力で振り下ろされたマグマトロンの右手はあえなくレイザーバックを“通り抜けた”
「なんだと?」
振り返るマグマトロンにレイザーバックのビームが突き刺さる。
「簡単な仕掛けだよ、私はこの装置によって1ナノクリックずれた時層に自由自在に移動できる」
立ち上がったマグマトロンに対し、もう一撃。
「メガトロンにもこうして近づいたんだろう、マグマトロン?」
「なんだと!貴様……!」
「惜しいがね、マグマトロン。これでゲームセットだ」
一撃。
「だが、まだ続けさせてもらう!」
さらにブラスターによる一撃が加えられる。
「どれだけいるんだ、奴らは!」
ウルファングが毒づく。
「……しかも統制が取れてると来た」
平地におびき出されたウルファングは3人のプレダコンと対峙する。
「ボーンクラッシャーもか!?くそっ、最低じゃないか!」
そしてさらにラミュラスやビブーンもまた、この場所へと。
「つまり俺達は自由自在に誘導されてたってことか。向こうの指揮官は中々優秀らしいな」
低く唸るウルファング達を見下ろしながらジャガーは指示を出す。
「プレダコン、名々に照準を定め、火力を集中させ……」
「マクシマルズ、戦いだ!首を取って来い!」
「ぐわっ!」
「今日は最低の日みたいだね、マグちゃん。まあ、僕のせいなんだけどね、それ。あと、これはおまけだよ」
メガトロンの上に転がったマイナーは、メガトロンに取り付けられた抑制装置を取り外す。
「貴様!貴様、何をした!」
「えーっとね、内緒」
「警告。トランスワープ開始まで後5ナノクリック。4、3……」
「なんだと!」
カウントが続く間にも、またブラスターの一撃が届いた。
もちろんレイザーバックのものだ。
「すまないな、マグマトロン。貴様だけの時間はもう終わりだ!」
「待て!こんな、こんなはずでは……!」
1、0。
そうしてマグマトロンはトランスワープの光の中へと消えた。
「……良い旅路を」
戦いは終わった。
マクシマルの思わぬ猛攻とマグマトロンが消えたことを受けたプレダコン兵士達は各人勝手に逃げ去って行った。
兵士達が逃げてしまっては指揮官は何も出来ない。ジャガーもまたその場を静かに退いた。
「最高のタイミングだったよ、えっと……」
「トーカと呼んでくれ。すまなかった、起動も出発も随分前にしていたんだが、ここまで来るのに時間が掛かってしまったのだ。
レイザービーストの集合のサインを聞いて、道中にいる仲間を集めながら来ていた」
トーカが言う。
シャチと象のフューザーである彼の身体は非常に大きい。
自然とウルファングは見上げる姿勢になる。
「俺はウルファング。レイザービーストももうすぐ来るだろう。だが、とりあえず今はトランスワープ増幅器だ」
崩れた崖の中からスナールはすぐさま救助された。
「大丈夫か?」
「メッセージは送った。届いているかどうかはわからないが……」
元気そうなスナールが言う。
「だが、届いていなかったとしたら……」
不安そうなビブーン。
「……その時はここにとどまるだけさ」
「これからどうする?」
スナールが助かったのはトーカのおかげだった。
彼の巨体と怪力のおかげで落盤がすぐに取り除かれたのだ。
「スナールが送ったメッセージがどうであろうと、出来ることは一つしかないさ。とりあえずこの地球の調査だ。そもそも俺達は調査員なんだからな」
「それから、プレダコンもだ。奴らはきっと戻って来るはずだから」
月夜の元、敗残兵たちが次々と集まってくる。
みなボロボロの姿の者達だ。だが、傷はそのうち治る。
また始まる戦いに必要なのは優秀な指揮官だ……
あれから2週間が経った。
「何か問題でも?」
「いや、何もないさプロール」
池の水面をぼんやりと眺めながらレイザービーストが言う。
崩れた拠点は今、新しく作り直されている。
ビブーンが建築の指揮を取り、トーカが巨大な角材を運び……
その中にはグリムロックの姿もある。
「メガトロンがメガトロンである以上、奴もまた野望のために動くだろう。そしていつの日か、セイバートロンでもその狂気を振るうはずだ。
だが、奴の命は私の手の内にあったんだ、プロール。マグマトロンを追放した後、その場でメガトロンを殺す事も出来た。
それでも私には出来なかったよ。途方も無く魅力的な手であっても、時の運行を妨げることは私には出来なかったんだ」
レイザーバックは立ち上がる。
「いや、あんたの判断は正しかったよ。それに思い返しても仕方ない。こっちのビーストウォーズもまだ終わってないんだからな!」
終わり?